【1】 慢性腎臓病の診療について
“腎臓”は、背中の左右にある握りこぶしほどの大きさの臓器です。”尿”を作ることで、血液中の不要な水分や毒素を捨てます。腎臓が悪くなると生じる症状(むくみや尿毒症)は早期には出ませんが、血液検査(クレアチニン上昇)で発見できます。また、尿中のたんぱく量が多ければ多いほど、腎臓が悪くなりやすいことも知られています。
このため、腎臓病においては、血液検査と尿検査が非常に大事です。市や企業の検診などでも測定されることが多くなっていますので、これらの異常が認められた場合は、症状が無くても放置せず、受診しましょう。
”腎臓”は、40~50歳を過ぎると、加齢とともに徐々にその働きが落ちていく傾向があります。糖尿病・高血圧・高尿酸血症・脂質異常症などの病気があると、さらに腎臓をいためてしまうため、これらの病気の有無をチェックし、必要な場合はなるべく早期から治療を行うことが重要です。また、脱水症の予防、使用している薬剤(痛み止めなど)の把握や指導、喫煙・肥満などの生活習慣の改善なども必要です。
当院では、医師・外来看護師・管理栄養士・薬剤師が連携し、患者さんがなるべく透析にならないように、なってしまうとしてもできるだけ遅らせることを目標に、診療しております。お薬での治療だけでなく、患者様の病状や生活状況に応じて、それぞれに適した食事(減塩食やたんぱく制限、カリウム制限など)や運動、正しい自宅血圧の測り方などについてもアドバイスできるよう、心がけております。
尿中のたんぱく量が多く、精密検査(腎生検)が必要な場合や、全身性疾患の一症状として腎臓が傷んでいると考えられ、全身の検査・治療が必要な場合は、総合病院へのご紹介もしております。
【2】 腎代替療法(透析療法や腎臓移植)の相談について
腎機能が正常の15%程度まで低下すると、『末期腎不全』に相当します。自分の腎臓だけでは、体内の不要な水分や毒素・カリウムを捨てきれなくなり、むくみや呼吸困難、尿毒症(吐き気やだるさ、食欲不振など)、不整脈などが出やすくなります。さらに悪化し、10%以下になると、①透析療法 ②腎臓移植のいずれかの腎代替療法を開始する必要があるとされています。
透析療法は、自分の腎臓の代わりに、不要となった水分や尿毒素、カリウムなどの老廃物を体外に捨てる治療です。自分の腎臓を治しているわけではないので、ずっと続ける必要があります。『血液透析』と『腹膜透析』の2つの方法があり、それぞれの治療にメリット・デメリットがあります。当院ではどちらの治療も行っております。
腎代替療法専門指導士(医師2名、外来看護師、透析看護師、透析臨床工学技士、薬剤師)を中心に、血液透析室の見学や、腹膜透析のデモンストレーションなども受けていただきながら、患者様ひとりひとりの合併症やライフスタイルに合わせて、より良い透析方法を選択できるよう、心がけております。
『血液透析』を行うためには、内シャント造設術という上肢の血管の手術が、『腹膜透析』を行っていくためには、腹膜透析用カテーテル留置術という腹部の手術が必要となります。どちらの手術も原則当院で施行可能ですが、患者様の体格や合併症によっては、総合病院に紹介のうえ、手術を依頼する場合もございます。
腎臓移植は、ご家族・配偶者・身内から2つの腎臓のうちの1つの提供を受ける『生体腎移植』と、脳死や心臓死になられた方からの腎臓の提供を受ける『献腎移植』の2種類があります。腎臓移植が可能な医療機関(日高病院・腎臓外科や群馬大学医学部附属病院・泌尿器科など)へのご紹介を随時行っております。
日本臨床腎移植学会・腎移植専門医による、腎移植に関する相談もお受けしております。
【3】 透析療法の診療について
当院の血液透析の診療では、以下の2点に力を注いでいます。
① シャント血管治療 (エコー下PTA)
シャント血管の狭窄・閉塞の治療として、ヨード造影剤を用いた透視下経皮的血管形成術(PTA)を行っていましたが、造影剤アレルギーをきたす患者様もおられました。透析患者さんでは心血管疾患・悪性腫瘍を合併しやすく、これらに対しても、造影剤検査や治療が必要となることもあります。造影剤アレルギーは、数回使用して問題なければ大丈夫というわけではなく、むしろ5回・10回と回数を重ねていくうちに出現するケースも多く、シャント治療においては極力造影剤を使用しないで治療していきたい、と考えるようになりました。
当院では2019年より、造影剤を使用しないエコー下PTAを開始しました。現在は閉塞性病変に対してもエコー下PTAを行っており、2023年度では全 665件のうちエコー下PTA 579件と、9割近くを占めています。病変によってはエコー下PTAが適さないケースもありますが、X線被爆を受けないメリットもあり、今後もより良いシャント治療を提供できるよう、心がけていきます。
日本透析医学会および日本透析アクセス医学会の血管内治療認定医による人工血管被覆ステント挿入術や薬剤溶出型バルーンを使用したPTAにも対応しております。各部・各課紹介の『シャント血管治療(VAIVTセンター)』(安藤雅泰センター長)もぜひご覧ください。
② 腎臓リハビリ
近年、高齢化とともに、全身の筋力低下に伴う易疲労感や自立生活が困難な状態への移行が問題となっています。透析患者さんでは、生命維持のために必要不可欠とはいえ、週3回・4~5時間透析療法を受けていただいており、よりベッド上で過ごす時間が長くなっています(5時間透析の患者さんは、年間で透析中に780時間=32日分もベッドで過ごしています)。
西片貝クリニックでは、関連病院のわかば病院・リハビリテーション課と連携のうえ、希望される透析患者様を対象に、血液透析中に腎臓リハビリを行っています。専門の理学療法士が介入することで、単一なエルゴメーター(自転車こぎ)などの有酸素運動のリハビリのみではなく、日常生活で困っている点の相談や、運動機能を評価したうえで、レジスタンストレーニング(筋トレ)も含めた患者様個々の状態に適したリハビリメニューを提供できるよう、心がけております。(状態の安定しない虚血性心疾患や重度高血圧、心室性不整脈などを合併している場合など、腎臓リハビリを施行できない場合もございます。)
他院で血液透析を開始された患者様の外来透析継続や、長期入院療養が必要となった患者様の入院透析受け入れにも対応しております。現在透析診療を受けている医療機関を通してご相談ください。